夏になると思い出すことがあります。
それは子供のころ、テントの中から顔を出して、満天の星々を眺
めていたときの、ゆったりとした時間の流れです。
たまには、あのころに戻って、過ぎ行く夏の夜空を眺めてみるの
もいいのではないでしょうか。
■さて、今日は「明るい貧乏」についてお話しします。
私は、以前子ども会のお世話をしていたことがあります。
そのときの副会長は、私よりも年上で、おまけに子どものころか
ら喧嘩っ早いので有名な人でした。
ですから、周りの皆さんは、全員この人を敬遠していました。
ただ、彼は私のいうことだけは素直にきいてくれました。
私が、根っからワル好きなのが彼には分かっていたのかも知れま
せん。
■ある日、そんな彼と共に夏休みに子供たちを裏山でキャンプさせ
ることになりました。
子どもたちは一応全員テントに入っていたのですが、近くに池が
あるため、私たち大人は徹夜で監視をしなければなりませんでし
た。
私たちは、子どもたちが寝静まった頃、本部テントの下で、ビー
ルを飲みながら雑談を始めました。
しばらくして、少しお酒もまわってきたところで、彼が自分のこ
とを話し出しました。
こういう話です。
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■彼は高校時代、家が貧しかったので、牛乳配達のアルバイトをし
ていました。
毎朝4時に起きて、牛乳配達をしてから学校に行く。これを3年
間1日も休まずに続けたのです。
これだけを聞くと、彼はとても親孝行な真面目な子供ということ
になるのですが、その彼は面白いことに、学校では札付きの不良
だったのです。
ですから、学校では牛乳配達をしている親孝行な子どもであるこ
とを誰も知りません。
彼にしても、そんなことが知れると不良の威厳に傷が付くので、
決して自分からは、ばらしません。
■ここまでなら、よくある話です。
これからが彼の本領発揮です。
彼は、高校までバスで通学していました。
3年間定期を使ってバスに乗っていました。
でも彼は、たった一度だけしか定期を買ったことがありませんで
した。
もちろん、お金が無かったからです。
では彼はどうして3年間もバスに乗ることができていたのでしょ
うか。
■1回目の定期が切れたときに、彼は定期を買うお金が無くて困っ
てしまいました。
そこで、定期の数字をマジックで書き換えたのです。
おそるおそるバスを降りようとすると、運転手さんはチラッと定
期を見ただけで何もいいません。
「ああ、よかった」
そう思って、次の日もバスに乗りました。
また、運転手さんは何もいいません。
これを、繰り返してたった一回定期券を買っただけで、3年間バ
スに乗り続けたのです。
皆さん、こんなことが信じられますか。
私も最初は作り話だと思いました。
次の話を聞くまでは。
■彼もいよいよ卒業となりました。
卒業式の前日に彼は3年間お世話になったバスの運転手さんに贈り
物を届けようと考えます。
田舎のバスなので、同じ時刻の運転手さんは、ずっと同じ人だった
のです。
でも、貧乏なので、贈り物を買うお金がありません。
あるとき、彼は、はたと名案を思いつき、大きな箱を持ってバスに
乗りました。
大きな箱。何だと思いますか。
それは翌日に卒業生に配るはずだった紅白饅頭50個が入ったダン
ボール箱だったのです。
なんと、彼はダンボール箱ごと学校から失敬してきてバスの運転手
さんにお礼として渡したのです。
「おっちゃん。3年間見逃してくれてありがとう。おっちゃんのお
かげで卒業できた」
そう言いながら、ダンボール箱ごと運転手さんに渡しました。
運転手さんは、ニッコリと微笑んだそうです。
■その後、彼は私にこういいました。
「運ちゃんは何もいえへんかったけど、あんな何回も書き直した
汚い数字を見れば、誰でも分かる」
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この話を聞いて、確かに褒められたことではありませんが、何か
貧乏に萎縮することのない彼の逞しさと、前向きな明るさに感動
したことを覚えています。
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【 明るければ貧乏でも生きられる 】
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あの「佐賀のがばいばあちゃん(島田洋七著)徳間文庫」
にこんな一節があります。
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しかし、ばあちゃんの答えはこうだった。
「何言うとるの。貧乏には二通りある。
暗い貧乏と明るい貧乏。
うちは明るい貧乏だからよか。
それも、最近貧乏になったのと違うから、心配せんでもよか。
自信を持ちなさい。
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■私も大学生の時には、電車通学をしていました。
定期の更新時期になると、いつもお金がなくて困っていたのを思
い出します。
定期が切れることが分かっているのですが、お金がないので、更
新できません。
仕方がないので、アルバイトのお金が入るまで切符を買って電車
に乗る。
ひどいときには、切符を買うとポケットにはたったの10円しか
残らず、10円だけ持って、電車に乗ったこともあります。
もちろん、帰りの電車賃はありません。
■でも、今思い出すと、まったく暗さはなかったように思います。
今はお金が無いだけ、体さえ健康なら、働けばいつかお金は入って
くる。
友達に借りられなければ、駅員さんに頼み込んで、降ろしてもらっ
たらいい。
お金を持っていない者を、駅に閉じ込めてもどうしようもないのや
から。
いつも、そんなふうに考えていました。
■お金がないから、学校に行けない。俺はなんて不幸だ。
なんてことを考えていたら、きっと卒業できなかったと思います。
若いということはすばらしいですね。
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